○ こころの散歩道
 
「物にも想いを込めて」
  娘が高校に進学しました。真新しい制服を着て、ピカピカの革靴を履き、初々しい姿での通学が始まりました。
 そんな矢先のある日、父親の私が家に帰ると、リビングに娘の通学用のカバンがどんと置かれ、その周りには、雑巾やティッシユ、さらに除菌シートまでが散乱していました。何やら洗面所から水の流れる音が聞こえてきます。そこには何かを一生懸命洗っている娘がいました。「何してるの」と聞くと、娘は、「もう、腹立つわ! 鳥のフンを落とされた!」と、すごく怒っています。余りの形相に私は圧倒され、ひと言、「ふ〜ん」とだけ言って、その場を立ち去りました。
 その晩、詳しく事情を聞きました。学校からの帰り道、通学カバンと、定期券を入れるパスケースに鳥のフンが落ちたということでした。しかも、昨日買ったばかりで、犬のぬいぐるみのケースです。それでカバンを奇麗に拭き、パスケースを洗っていたのです。「そういえば、お父さんも小学生の時、ハトのフンを落とされたことがあったな。カバンで受け止めたから、道路を汚さんで良かったな。」そう言ってなだめるのですが、娘は不機嫌なままでした。
 私は、インターネットで「鳥のフン」を検索してみました。すると、「鳥にフンを落とされることは、幸せのジンクス」「海外では、これから訪れる幸運の予兆」だと書いてありました。翌朝娘にそれを話すと、「ふ〜ん、あっそう」とサラッとかわされましたが、さらに私は言いました。「きっと、このフン事件はラッキーなことやで。カバンに落ちたことは、学校の勉強をサポートしてくれるということで、パスケースに落ちたということは、登下校を守ってくれるということや! そんなふうに良いように思ったらいいのとちがう。」そう言うと、娘は大笑いをして、「どれだけプラス思考やねん。ほんまに、そうやったらいいな」と言って、笑顔で学校に行きました。
 私は、その笑顔を見てホッとしました。そして、娘の後ろ姿に手を合わせ、「カバンさん、パスケースさんありがとう。お世話になります」と心で念じました。
 ちょうど鳥のフン事件の頃、「思い出のランドセルギフト」という、日本で役目を終えたランドセルをアフガニスタンに寄贈し、教育の機会に恵まれない子どもたちへの国際支援活動について、妻が関心を寄せていました。
 妻は、長男と長女が小学校で6年間使用していたランドセルを、大事に保管していました。それを、アフガニスタンの子どもたちに贈ってはどうかと思い、早速息子たちに話してみると、素直に賛成してくれました。
 ただ、長女は、思い出にずっと置いておこうと思っていたらしく、少し寂しくなったようで、記念にランドセルと一緒に写真を撮りました。実は、そのランドセルにも鳥のフンを落とされてことがあり、「幸運を引き寄せる代物になれば」と想いを込めて贈ることになりました。
 日本からはるか遠いアフガニスタンの國で、自分たちが大切に使っていたランドセルを、「どんな子が使ってくれるのか。」「元気に勉強を頑張ってくれたらうれしいな」などと、親子で想いを巡らしながら話したことでした。
 プレゼントをして、使っていただくことで、お役に立てる喜びを感じることができて、とても貴
重な経験でした。
 妻は、知り合いから「ヘアドネーション」という取り組みを聞いて、自分も提供させていただき
たいと思い立ちました。
「ヘアドネーション」というのは、がんや白血病、先天性の無毛症、不慮の事故などによって髪の毛を失った子どもたちに、寄付された髪の毛を使ってオーダーメイドの医療用のウイッグを無償で提供する活動だそうです。一人の子にウイッグを贈るには、31センチ以上の長さの髪の毛が20、30人分必要で、このウイッグを待ち望んでいる子どもたちが大勢いるそうです。
 妻が行き付けの美容院で尋ねてみると、髪の毛の手入れの仕方や、送り方を教えてくれました。そして、自分の髪の毛を少しでもお役に立てればとの思いで寄付しました。
 すると、妻の「ヘアドネーション」の取り組みを知った小学6年の次女が、「私もする」と言って、今髪の毛を大切に手入れしながらのばしています。
 親としては次女のその想いがとてもうれしく、人への想いのこもった取り組みというのは、自ずと周りにも伝わっていく働きがあるんだなあと感じました。 
 大事に使っているカバン、パスケース、思い出のランドセル、掛け替えの無い髪の毛。物に想いを込めていくと、感謝の心が生まれます。そこから人を想う心が育ち、さらに誰かの役に立つことが喜びとなる。
 いろいろな想いを大事にできる世の中であってほしいと思わずにはいられません。

                   (金光教のラジオ放送「こころで聴くおはなし」)より